詩人・吉野弘さん

吉野弘さんのことを想う。






大学時代、現代詩との出逢いがあった。
講義で毎回ひとつの現代詩を取り上げて、発表したり感想レポートを書いた。
その中に、吉野弘さんの「I was born」があった。
私にとってこの詩はたしかに衝撃的だったけれど、のめり込むほどではなかった。
でも、吉野弘さんの言葉のやわらかさに興味を引かれたところはあった。
だから、大学の図書館で詩集を借りた。
そこで出会ったのが、「祝婚歌」だった。
結婚する二人に対して、やさしい言葉で夫婦の理想を語っている。
それが押し付けがましいことはなく、年若い夫婦も老いた夫婦にも心を揺さぶられるような伝え方。

私の印象としては、吉野弘さんは言葉がやさしいのだ。
吉野弘さんの言葉たちは、私の心にそっと寄り添ってくれる。


一番好きな詩は、「自分自身に」である。


他人を励ますことはできても
自分を励ますことは難しい
だから――というべきか
しかし――というべきか
自分がまだひらく花だと
思える間はそう思うがいい
すこしの気恥ずかしさに耐え
すこしの無理をしてでも
淡い賑やかさのなかに
自分を遊ばせておくがいい


この詩と出逢った大学時代からずっと、何かで自分の心が折れそうなときはこの詩を思い出した。
言葉がやさしい、でも的確。
私の理想は吉野弘さんのような言葉だ。

誰かに寄り添える言葉が紡げれば。
そう淡い期待と決意を胸に。


吉野弘さん、たくさんのやさしい言葉たちをありがとうございました。