香り

あの人に会う。



不思議なもので、あの人に会って最後に残るものはいつも香りだ。


あの人の熱も、あの人との会話の内容も。
覚えているけれども、何故か薄ぼんやりとしている。
けれども香りは鮮明に。
私の鼻から、からだへと駆け巡っている。


平安時代から貴族が契りを交わした後朝の歌に、残り香の歌がよく詠まれた。
それもそのはずだなあ、と最近思う。
香りは、どんな感覚よりも鮮やかに心に残っているのだもの。
それが、どこかの市販の石鹸の香りであっても。
あの人が身に付ければ、あの人の香りとなるわけで。
それが鼻孔を掠めて私の感覚が尚更あの人を欲するわけだ。


さて。
私はあの人に香りを残すことは出来ているのだろうか…