あの夜

骨にヒビが入りながらも2週間も経つと痛みはなくなってくる。
しかし、だからと云って痛みは完全になくなっていないし、簡単にギブスが外れるわけではない。
相変わらず歩行に違和感を感じながら過ごしている。

25日、とっても重要な任務があり、ギブスしながらは出来ないので前日こっそり整骨院に行ってギブスを外してテーピングしてもらった。
最初は「これで出来るのかな」と思ったけれど、だんだんと歩行に慣れ、しかし正座してたらすぐに痺れて他人にバレない様に動かして誤魔化した。

そして、夜。
もう一生味わえないことを懸命にやってきた。


入社当時、ペーペーで初めて参加したそれは、観ることも出来ずに終わった。
二年目、余裕が出来て少し観てみると、そこは言葉に云い尽くせない程美しい世界だった。
三年目、もう少しのところで手が届かなかったそこに、私は憧れの眼差しで観ていた。
四年目、ようやく掴み取ったそれは周りの人に支えられ相変わらず腰が痛いだの右膝が痛いだの云いながらも憧れの場所に立てた喜びを感じながら無我夢中でやった。終わった後、あまりの充実ぶりに密かに来年も出てやると闘志を燃やした。欲を出した。


そして、五年目。
希望を出したら意外にも通り、今年もやらせてもらえた。
張り切って練習していたら、今回は怪我をしてしまった。
神様はどうやら私に試練をよく与える方のようだった。
でも、私はやると決めた。
だって、今年で最後なのにこれでやらなかったら後悔するもの。
一生後悔するなら一時の痛みなんて、なんてことはない。
今年も周りの人たちに支えられて、その場所に立った。
前日は同期が二人頑張っていて、その姿に涙が出た。
この日は私の前に先輩たちが頑張ってて、泣けた。
でも、次は私の出番だからと必死に涙をこらえた。
本番、不思議に骨の痛みはなく、神様はやっぱりこういうときは味方してくれるものだと思った。
月がきれいで、「嗚呼、月がきれいな夜空で出来るなんて贅沢ものだ」と思いながらじっくりとその時間を味わった。


自分の出番の時は泣かなかった。
うれしくて、それどころではなかったのだろう。


この生活もあと半年だと思うと、一日一日を大切に過ごしていかなければならないと、この夜痛切に思った。


ちなみに、この夜の帰りはヒビの骨が痛すぎて悶絶しそうだった。。。