ゴスペラーズ『ハモ騒動 〜The Gospellers Covers〜』





ゴスペラーズがカバーアルバムを出す。


この報を知って、正直胸が躍った。
これまで数多くのステージでカバー曲を歌っていた人たちである。
あの曲入るかしら?新しくカバーする曲はあるのかしら?
きっと私が知らない既にカバーした曲も入るだろう。
発売日当日からちょいと経ったが、本日購入し、聴きました。


全体的にすごく良いアルバムである。
“猫騒動”はゴスペラーズのテクニックだけではない、若さみたいなものが出ていたし、“やさしさに包まれたなら”にはあの曲をアカペラでも十分クオリティの高いものに出来るのだと吃驚した。
知っている曲だからこそ、すぐに馴染んで口ずさめる。またひとつゴスペラーズのお気に入りの一曲となった。
よくテレビでも歌っていた“真っ赤な太陽”はさすがのスピード感だし、“夢伝説”もスタレビとのセッションが素敵に作用していて素晴らしかった。
“太陽の五人”は洋楽らしいノリノリの曲調と歌い継ぎがピタリと合っている。





だが。
ひとつだけ腑に落ちない曲があった。


“TIME STOP”である。


米米クラブの名曲である。
米米クラブは、私がゴスペラーズよりも前に好きになったミュージシャンである。
幼稚園の頃には父親によって聴かされていたのだから、筋金入りである。
“TIME STOP”は米米クラブの楽曲の中でも殿堂入りの曲で、小娘時代からよく聴いていた。
だから、実は個人的に期待と不安が入り混じりながら聴いた曲だった。
思わず聴く前にブックレット最後のミュージシャンの構成見てしまったくらいだもの。
自分でも「何故そこ見る!?」と思ったが、まあ、そこは不安が見え隠れしていたのであろう。
が、ミュージシャンはなんと現米米クラブメンバー&ライブでもサポートしている人たち。
つまり、バックはほぼ原曲メンバー。
ゴスペラーズのやる気を感じた。

実際、聴いてみると原曲の良さを活かしたままのアレンジ、コーラスアレンジだった。
編曲が金子隆博さん――米米クラブメンバーだからなのかもしれない。


しかし、なんか腑に落ちなかったのである。



最初に聴いたときは「なんだか想像していたものと襲ってくる感覚が違う」と思った。
それを冷静に考えられなくて、とりあえずもだえ苦しんでみた。
何回かリピートして聴いて、そして原曲の米米クラブオリジナルと聴き比べた。

そして思ったのが、ゴスペラーズの曲だと心に迫ってこない、と云うこと。
それは、メインボーカルを酒井さんと安岡さんが二人で担当していたからだと思う。

この曲はとにかく男が女を口説いている歌なのだ。
「今夜はカタナシ」なんて、いかにもの口説き文句だ。
それを二人で歌っちゃうからこの歌の本質がどっかに飛んでしまった。
二人で歌っても違和感のない曲もあるだろう。
だがこの曲は、この曲における私のイメージは月明かりのテラスに男女二人きりなのだ。
そこで男二人に歌われても心は奪われないのだ。

酒井さんも安岡さんも好きだ。
二人ともこの曲に合っていると思う。
でも、だからと云って二人で分担して歌う曲ではないのだ。
だから、願うことなら『酒井さんソロバージョン』『安岡さんソロバージョン』で聴きたい。
蛇足ながら間奏もコーラスはいいけど、英語のセリフはそんなに要らない気がする。
程が良いくらいがいいのになあ。


思うに、“TIME STOP”はテクニックではなく、一種の芝居も大事なのだ。
クサイくらいの、演歌かと思うほどの感情が入る歌い方(抑揚とかね)が大事な曲だったのだ。
それをカールスモーキー石井をはじめバンド全体で表現していた米米クラブは、やっぱりエンターテイナーだったのだ。
ゴスペラーズのアルバムでこの曲と米米クラブのバラードの本質を今更ながら気付いたようである。




こんなに書いたけど、ゴスペラーズの“TIME STOP”が全面的に悪いわけではないのだ。
私が我が侭なだけなのだ。

許してください。