長井好弘『寄席おもしろ帖』

寄席おもしろ帖

寄席おもしろ帖





私は福岡在住である。
だから、正直に云おう。

寄席には行ったことがない。


東京に遊びに行った折に浅草演芸ホール池袋演芸場を素通りしただけだ。
素通りしたなら入れよ、と思われるだろうがちょっと待ってくれと云いたい。
女子が一人で寄席に入るのは、勇気が必要なのだ。

そんな私が寄席気分を味わえる本、と云ったらしっくりくる。
高座を再現して、観客だった筆者のまなざしのあたたかさが寄席の空気を物語っている。


「我々がこの『寄席の歌舞伎座』と称する池袋演芸場に(大笑いの客に)、いやいや、お客様の質がそうなんですよ。その池袋にですね、柳家小さんが来るんですよ。あの人間国宝の。すぐ近く(目白)に住んでますからね、呼びゃあやって来る。何しろ退屈してますからね。剣道はいつもやってます。落語の方は、気が向けば……。ここですよ、剣道は率先してやってるんですがねえ」
柳亭市馬 2002年4月)


このエピソードは先代小さん師匠が病に倒れて、なかなか高座にあがらなくなったところを弟子の市馬師匠が話題に出して師匠を笑いながらも高座に上がってくれることを心待ちにしているところがなんだかいいなと思う。
お客も待っている感が伝わる。


こういう雰囲気も私も味わいたいと思うけれど、なかなか出来ていないのが現状。
しばらくは地域の落語会で我慢して、いつか絶対寄席に行くのだ。
この本を読む度にそう意気込んでいる。


そうそう、紙切りも生涯に一度はリクエストして、もらってみたいなあ。