鬢付け油の香

ある日の物思い。





相撲の九州場所が終わった。
今年の相撲はこれで終わり。
ついでに私のお相撲さんを間近で見る生活も終わりを告げた。

ここ数年、この時期はお相撲さんが職場の界隈を通ることが多かった。
大きな体が通り過ぎると、自然、鬢付け油の香りがした。
鬢付け油の香り、これには人それぞれの好みがある。

好きな人もいるし、嫌いな人もいる。


私は、この鬢付け油の匂いが好きだった。


結い上げた髪を撫でつける鬢付け油が、江戸の香りを漂わせていて好きだ。
自分は江戸の娘で、彼らの歩く場所は江戸の通り。
そんな錯覚を覚えて、楽しんでいた。


しかし、それも今年まで。
来年はもうこの職場にいないのだから、お相撲さんに会うのは滅多になくなるだろう。


それも、ひとつの感慨である。